誕生
| 「夕べ隣じゃ生まれたかも知れないよ」よ母が言う。 もう何十年も昔の話である。私の育った隣の家の長女娘が出産のために帰っていたのだ、大きなお腹をして子供心にも何時生まれても不思議でないくらい、大きなお腹と、やつれた顔で娘時代の玲子ちゃんとは打って変わった容貌であった。 町内でも美人誉れ高い美形で私など憧れの的であった。その玲子ちゃんが子供を生んだ、まだ子供だった私は、女性の一代イベントなんて思っても見なかったから、スンナリと、あかちゃんは生まれてくるものと思っていた。 昔の事だから家での出産は当たり前で、病院での出産の異常のあった人だけのようだった。 それから何日かして、母と赤ちゃんを見せてもらいに、隣の家に行った。当時は近所の人にお披露目みたいに、お七夜といって、赤ちゃんに晴れ着を着せて宴会のような事をしたのだが、嫁に行った玲子ちゃんは嫁ぎ先で誕生の祝いをするので早めに、嫁ぎ先に帰るからと見せて貰いに行ったのだ。 赤ちゃんは、どうみても可愛い顔とは言いがたく、まるで小さい赤いミニチィアのお猿さんのように見えたが、それは心で思っただけなのですが、玲子ちゃんはそれはそれは大変だったらしく、私に 「幸ちゃん女に生まれるのは、大変だよ」と顔を顰めて、その時の状況は今でも思い出す。さて自分がその歳になった時には「今度生まれてくる時は絶対に男に、、、」と思ったくらいだから、その時の玲子ちゃんの言葉は今でもはっきり思い出す。 さて それから何十年母が逝った日、その通やの日に、その時生まれた秀子ちゃんが「おばちゃんに、お線香を、、、」と来てくれた。ふと昔のその時の事が思い出されて、輪廻とはこの事か、と、、、 秀子ちゃんは言う、だいぶ前から痴呆が現れた母が小学校の土手で腰掛けているおばちゃんに、「私が分かるけ？」と聞くと「分かるさ、秀子ちゃんだろう、、」と言ったと言う。秀子ちゃんは小学校の先生になって、母の住んでいる家の前の学校に勤めていたのである。 私は15歳から実家を出ていたので、秀子ちゃんの成人した顔は知らないのだが、一目で秀子ちゃんと分かったのは何だったのか。 感と言ってしまえば、そうであろうが、きっと何かが繋いでいてくれたのかと、思っている。 私にはとても懐かしく、秀子ちゃんには無いだろうが、何かが私とつないでくれているのか、自分勝手に思い込んでいる。 2004年2月16日 おばさん記 |